ルールという戦略

MBA パラダイムシフト 戦略実践

2018年冬季オリンピックが終わった。オリンピックはルールとの闘いでもある。例えば、スキージャンプ板の長さは、長い方が空気力学的に有利とされている。1994年から98年までは、ジャンパーの身長+最大80cmまでであった。1999年以降は、身長の最大146%(最長で270cm)までと決められている。短距離走義足の長さは、長い方が生体力学的に有利とされている。この長さは両手を広げた長さから回帰式で計算している。

ルールには基盤となる標準と評価軸の標準の2つがある。例えば、ドーピングルールは前者に該当し、フィギュアスケートで後半に難しいジャンプを飛ぶと加算されるといったものは後者(競技ルール)に該当する。

このルールというのは経営においてとても大きな意味を持つ。特にグローバル競争においては顕著にその差が出てくる。

中国において優位であったトヨタのハイブリッド車であるが、2009年にVWのダウンサイジングターボ車が補助金対象になり、ハイブリッド車が対象外になった。その後、販売台数で3倍以上の差がついてしまった。

ヤマト運輸は中国市場において小口保冷宅配というサービスを展開している。魚一匹でも宅配できるサービスだ。しかし、お客様の中にはとにかく価格優先という志向もある。結果、温度管理を十分に行わず常温放置して商品を傷めてしまう。それでも価格優先のお客様は多い。結果、小口保冷というサービスそのものの存在が危うくなる。そこでヤマト運輸はルールという戦略をとった。PAS 1018という公開仕様書に関する規格だ。効力や客観性に関しては、業界などが作成する民間規格より上で、ISOよりは下位にあたる。ただ、ISOにするのは時間を要するので、まずはPAS制定に動いたということだ。

PAS 1018認証では配送サービスを対象としており、積み込みや一時保管など荷受人までのプロセス全てで規格が設定されている。今後、ISO化されると思うが、健全な社会の発展のためには必要なことである。ルールというのは企業業績に時には戦略以上に大きく影響するということを知っておくべくだ。

ルールというのは、構造標準(製品の構造を規定する)から始まり、性能標準へ進化する。製品の性能を検査方法と基準値で規定するものだ。

そして今はプロセス標準と進化している。製品の全体品質を品質管理プロセスで規定するというものだ。サービスがこの標準化のメインテーマになってきていることが重要である。

サービスに標準や規格など必要なのかという疑問を持つ方もいるだろう。日本が標榜している"おもてなし"も規格認証の対象になっている。高品質なサービスに対して相応の評価が受けられる制度的な枠組みである。仮におもてなしの生産性を上げようとしたら労働人口の多い国が有利である。労働者が少ない国は不利になる。それでは困るだろう。

サービス品質を定義し、そして見える化する必要がある。例えば、お客様も一緒になって価値を生みだす(共創価値)ことを優れたサービスと定義しそれを規格認証すれば、利用者のためだけではなく社会の発展にも役立つことになる。

日本はものづくりで知られ、オペレーショナル・エクセレンスで世界をリードしてきた。今はサービス・エクセレンスがISO TC 312として新設されている。基本価値提供を超えた、顧客にとって優れた価値を持続的に提供し続ける組織能力を問うものである。

戦略というと競争、差別化といった印象が強いが、標準という枠組みを活用し、その中で独創性を発揮していく戦略センスが求められている時代へ移行している。

執筆:宮川 雅明