実験する文化

私が起業家人材プログラムを開発したのは1999年のこと。ある組織と組んでのプロジェクトでした。以来、大小さまざまな起業や育成に関わらせていただきました。当時の問題意識としては、起業率より廃業率のほうが高かったので、起業家育成に携わることの意義は大きいと考えていました。

米国のクロトンビル(ニューヨーク州)や欧州の先進的企業に足を運び、イノベーション人材の育成の研究を行いながらの開発でした。プログラムは、各社から選抜人材が集い、新規事業計画を創り上げるというものでしたが、2期、3期と開催していくうちに、これは研修プログラムであって、実際に事業を興すものではないということがはっきりしてきました。

実際に外に出てフィールド調査を行いながら、具体的な事業案を考え、発表会前日まで財務シミュレーションを行い、当日は投資家に点数を付けてもらうなどブートキャンプ(新兵訓練プログラム)さながらの取り組みでしたが、発表会が終わると祭りの後のように、みんな自分たちの会社に戻り、いつも通りの仕事をします。私は6期で総合コーディネーターを辞めました。

米国の心理学者E.H.シャインは外的任務指向と内的任務集団指向にリーダーシップを分けています。あえていうなら創造と管理(PDCA)です。この2つは異なるリーダーによって達成されるとしており、部下もリーダーには2種類いると認識しています。指導者と軍師、創業者と参謀。井深大と盛田昭夫、本田宗一郎と藤澤武夫。歴史的には、織田信長に沢彦宗恩(たくげん そうおん)、秀吉には施薬院全宗、武田信玄には山本勘助といった具合です。

先日、ベンチャー経営者4人の話を聞く機会がありました。大企業出身の方もいましたが、その方は早々に退職して起業しています。ある一人の創業者はいま流行りのシェアリング・エコノミーの会社を経営していました。本人いわく「イノベーションなど起こそうと思ってやったのではない。複数の本質的課題を一つのサービスにまとめただけ」と。

4人に共通していたのは、身近な友人や家族が起業していることであり、起業は普通だということです。かつて私もニューヨークで起業しました。西海岸と東海岸では雰囲気は違いますが、起業は普通のことでしたし、ライフスタイル、文化のようなものでした。
 
最初に行った起業家人材プログラムに参加した人たちは「参謀タイプ」であって、「起業家タイプ」ではなかったのかもしれません。企業は優秀な人材を求めますが、優秀さと創造性は異なります。前者は理性と秩序を生み出すかもしれませんが、後者は破壊と創造をもたらします。

人は理解してもやったことにないものはできないもの。疑似体験でもいから、やってみることが大切。だから実験が大事なのです。最初に自転車に乗れた時のことを思い出してください。痛さと恐怖のなかでスーと前に進んだ感触が次のペダルを押してくれます。本をいくら読んでも、考えてもわからないこと、教えられないことがあります。体験を通して会得するしかないのです。

前述のベンチャー経営者には、「起業の後には参謀が必要ですよ」と、爺さまみたいなことを言ってしまいました。彼らが長く成功し続けるどうかはわかりませんが、彼らの会社から次の起業家が生まれてくることを期待しています。

執筆:宮川 雅明

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