感情が行動の源泉

感情的というと何か悪い意味にとられる印象があります。アダム・スミスは、感情を共有できることが道徳だといいました。人の悲しみが自分のことのように思える、がんばった人には拍手を送る......。大切なのはどのような感情を持つかです。

組織行動学者のクリス・アージリスは、「集団能力に最も大きな影響を与えるのは、EQ(心の知能指数 :emotional quotient)である」といいました。集団的知能を高めるのは、個々のIQではなくEQだということです。EQの低い人間が一人でもいると組織の集団能力は落ちてしまいます。

これまで7つのノーベル賞を獲得しているベル研究所において、優れた業績とそうでないグループの違いは何かを調査したところ、IQではなくEQを含むその他の知性であることが判明しました。類似する研究は昔からあります。1940年代のオハイオ州立大学の研究では、課題達成と人間関係の両立が不可欠としています。心理学者の三隅二不二はリーダーシップ理論の「PM理論」においてM(メンテナンス:人間関係)の重要性を明らかにしました。テキサス大学のブレイクとムートンの「マネジアル・グリッド論」でも同様の結論を得ています。私見ではありますが、EQは他者に対する感情の在り方であり、根底は道徳だと思っています。リーダーあるいは組織に求められるのは、わくわくするような共通のビジョン、人を突き動かすもの、人の意欲を引き出す能力であるはずです。戦略は欠かせないものではありますが、多少乱暴な言い方をすれば、戦略で組織は動きません。行動の源泉は人々の感情にあります。

EQ(心の知能指数)は学習可能なものであり、年齢は問わないとあります。これはアイデンティティ論と同じです。人徳のようなものは一生を通じて養うものです。しかし、『論語』に志学、而立、不惑とあるように、それぞれの年代に応じて学ぶべきこと、気づくべきことがあるかもしれません。

組織人、会社人としていうなら、主語を高くしていくことです。若い時は、「自分はこれがしたい、これを習得したい」と、主語は「自分」で結構です。30代になれば、「うちの会社はこうあるべきではないか」と考えます。その後、「うちの業界はこうあるべきだ」「世界のためにはこうあるべきではないか」と考えたりします。つまり公の発想から、自分のなすべきことや役割をとらえるようになります。

人は社会的な存在であるとすれば組織やコミュニティが前提となります。そこにおいては、個人のアイデンティティとリーダーの2つがカギを握ります。戦略や制度は、共通目標達成の支援ツールにすぎません。学ぶべきことは、他者や社会に対する健全な感情を持つことであり、道徳心を持つことです。

法律や政治が生まれるはるか昔に倫理というものが人々の社会をまとめてきたことを忘れてはいけません。何のために経済活動をするのか。自分のため、個人のためであると同時に他者のためでもあります。アダム・スミスが問うたのは、経済活動を通じての人の倫理であったはずです。

そしてリーダーに求められるものとは。ジェームズ・M・クーゼス はリーダーの5つの実践の一つに、心に訴えることを挙げています。心に訴えるというと、浪花節のようにも聞こえますが、感情が行動の源泉であることを忘れてはならないのです。

執筆:宮川 雅明

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