人事が変わる給与が変わる~給与は経営に残った最後のガラパゴスか~

■ 数字上の景気は沸いている

アベノミクスという言葉を聞かなくなった。効果が減退しているのではというニュースもあり、すっかり色あせてしまったようだが、実は2012年頃と比較すると確実に景気は良くなっている。本来はもっと成長すべきであったのではということはさておきの話ではあるが、消費が進まないので景気実感が伴わないといわれる。ただ2018年5月に近い時期の数字に限定すると、名目GDPは547兆円、株価は22,000円を超え、設備投資もリーマンショック前の水準を回復しつつある。とくに失業率は2.5%、有効求人倍率は1.59倍となっている(2018年3月調査)。有効求人倍率が全都道府県で1倍を超えたのは、統計を取り始めて以来の出来事だという。

学卒の採用開始時期が前倒しになって、企業の人事部は年中採用活動に取り組んでおり、人員確保に悲壮感すら漂っている。バブル期を超える人手不足の時代である。人手さえあれば、まだまだ売上高を増やすことが出来るのにという声も聞かれる。採用支度金を用意する会社も増えている。ネットやテレビコマーシャルにでも、採用会社の広告ものが目立っており30年ぶりに訪れた求人バブルである。

■ 給与の仕組みが動きはじめた

そのなかで給与の仕組みが動いている。とくに初任給はバブル以降、ずっと20万円そこそこであった。一時期インターネットバブルといわれた2000年前後に若干の上昇がみられたが、初任給といえば20万円という相場観があった。物価が上がらないデフレの時代であるし、組織の人員数は過剰気味なので、給与水準をあげなくて良いという常識がここ20年ほど続いていた。業績が良くても、たまたまの要素が強いので、賞与はともかく給与をあげるのはまかりならないという経営判断があったのだろう。ベアゼロの時代が続き、給与には手をつける必要はないという考えが普通となっていた。この間、人事部にいた人が志向した人事制度は、数を絞った適材適所と人件費の有効活用・効率化であった。コンピテンシー・価値に基づく人事など登場したが「縮み志向」であったことは否めない。

また最近でこそ統計を活かした人事の効果性の追求という考え方も登場しているが、20年という年月で、人事はみずから動くものではないという常識を身につけてしまっていたのではないだろうか。本来の人事は企画業務であるはずだが、あまり新しいことに取り組んだり新規性を求めたり、という思考が薄れていた。人事部は給与のしくみについて考察することがなくなっていたのではないだろうか。

しかしこの人手不足である。働き方改革という文脈での業務の見直し、女性や団塊世代などの活躍の場をつくるなど、人事の課題が一気に押し寄せている。

■ 高い昇給が目白押し

経営者とはきわめて現実的で、人が採れるなら人件費率を多少ならあげても良いというようになっている。環境変化が腰の重かった組織を動かしているともいえよう。じつは労働問題は政策議論以前の問題で、足下をすくわれることが多く、歴史的にも政治や経営にとって鬼門とされ、できれば手をつけなくて良いならばできれば触りたくない分野だ。人はなんだかんだ言っても、変化することには保守的で消極的になりがちだ。

しかし、それでは経営が立ちゆかなくなることから、人事が動き始めている。経営に訪れる本質的な動きから人事を見直している例も増えつつある。グローバル経営を推進する企業の中では、人材確保のために給与水準の上昇を目指すものも多い。代表格としてのソニーは社員の年収を5%程度引き上げる方針であり、年間一時金を過去最高となる6.9ヵ月とした上で、一般企業の月額の基本給に当たるベース給も引き上げを予定している。AIの技術者には年収をいくら出しても惜しくないということも言われる。

■ ガラパゴス化していた給与制度に改革の波

従来の給与は日本の市場を相手にしていた。製品や技術開発はグローバルな視点で行っていたが、雇用対象はダイバシティがすすむ前の状況では、日本人・男性・正社員が対象となっていた。いまグローバル化が進んでいるが、雇用対象は日本に住む男性だけではないということだ。アメリカやヨーロッパ・アジアとくに中国での生産や販売・研究開発が求められ、そこで働く人の雇用を促進する仕組みが求められるようになっている。グローバル等とも言わずに、外国人労働者と一緒に働いていることもあたりまえになっている。製品や販売の市場が開かれることで、いつの間にやら人事の国際化が進み、当然ながら給与の国際化も進んでいる。優秀な人材を獲得し引き留めるための相場と人事の仕組みの導入が必要だ。

経営者と一般従業員の給与水準の格差は、日本では10~20倍程度だが、それに比べると海外企業の経営者の報酬水準は100倍にも達する例がある。いままでにはない枠組みを用意しないといけない。一般労働者にしても中国の沿岸部で採用を試みると、日本での給与相場よりも同じか以上の例もある。

労働市場がグローバルになったことで給与水準の全社的な見直しが始まらざるを得ないのだ。インターネットを通じて、どこででも働くことの出来る空間が整いつつある。会議をパソコンやスマホを通じてのバーチャル空間で行う例も多くなっている。同じ時間・同じ場所で働くことが前提とした働き方が変化しつつあるのだ。距離の格差がうまることで、世界中のどこでも働くことのできる組織が生まれつつある。グローバルな体制を取れば、日本だけの個別事情にとらわれていることで経営がおかしくなりかねない。雇用と給与が経営に残った最後のガラパゴスということなのだ。

執筆:人事コンサルタント / コンソリューション
廣岡 久生

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