イノベーションには倫理が必要~リーダーの責任~

驚くような不正に関するニュースが多すぎる。最近のもので記憶にあるのは、大阪ガスの顧客買い込みで公取調査、東京医大男女差別不正入試、日本貨物航空の不適切整備で史上初の連続式耐空証明取り消し、兵庫県教育委員会のいじめ文書隠蔽、国債相場操縦で三菱モルガンのプライマリー・ディーラー資格一時停止、日産排出ガスの測定値無効を有効に。全てこの1ヶ月で起こったことばかりである。権威あるとされるものが不正の主役になっている。氷山の一角だろう。

「イノベーションには倫理が必要」といったのは、Frog Design社長Hartmut Esslinger で、著書『A Fine Line:How Design Strategies Are Shaping the Future of Business』に述べられている(邦訳も出ている)。アップルのデザインをした会社だ。彼は著書の中で次のような趣旨のことを述べている。

「リーダーシップにおいて倫理が如何に大切かは強調しすぎることはない。仮に倫理的に間違った行為が罰されることなく放置されれば、それがその会社の標準業務手順となる。企業のトップが判断や戦略の倫理的な側面を無視したら、大きなそして不必要なリスクに晒されることになる。倫理を重んじることは、リーダーの基本的な責任である。」

ここで述べている倫理とはコンプライアンスとかそういう類のものでなく、より根源にある人としての責任である。リーダーとは社会をよりよくするために価値ある戦略を創り出し進化していくことだといっている。著書の中でメイタグ(米国においてMacと並び称さるほど知らない人はいない有名家電メーカー及びそのブランド)を例にとり、イノベーションを考えず、単に従業員を切り、海外にアウトソーシングした結果、買収されることになったことについて、アウトソーシング自体がよくないということではなく、価値ある戦略を生み出す機会があったにも関わらずそれを怠ったこと自体が問題で倫理に反すると述べている。つまり、価値ある戦略を考えないリーダーは倫理に反するということだ。

戦略を考えず今の利権、利益を守るために社会や他者への被害は無視する。繰り返される不正や隠蔽を見続けると、むしろそれが正当だといわんばかりである。何故、そのようなことが起こり続けるのか。有名なジョブスの言葉に、「Keep looking,don't settle(探し続けろ、立ち止まるな)」というのがある。これは能力や、いわんや偏差値を示すものではない。マインドを示すものだ。これはアイデンティティ論でいえば、私的なものではなく公的なマインドだ。

確かに「守る」ことは大切である。しかし、それ以上に大切なのは「挑戦する」ことだ。今起きている事例を見れば、先を描き実現しようとする情熱がなく、守りに走れば不正に繋がることを示唆している。優秀さより好奇心溢れる人材が求められるのではないか。

『A Fine Line:How Design Strategies Are Shaping the Future of Business』
Hartmut Esslinger
出版社:Jossey-Bass
言語:英語
ISBN-10:0470451025
ISBN-13:978-0470451021
発売日:2009/6/29

執筆:宮川 雅明

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