働き方改革と生産性向上~ある素材メーカーの挑戦~

働き方改革 生産性向上 組織づくり

2016年9月27日、第1回働き方改革実現会議が開催され、この会議は10回続きました。ご存じの通り、ワークライフバランスやライフスタイルに応じた多様で柔軟な働き方を目指すものです。楽しく豊かな社会をイメージさせますが、現実は厳しいものです。議事録はその難しさと情熱を伝えきれていません。

「働き方」という言葉を聞くと、私は1987年の新前川レポートを思い出します。年間労働時間1800時間の時短です(月間150時間)。現在、一部の企業ではできていても、全体的にみると、目指すところはいまなお実現できていません。

当時を説明すると、1985年にプラザ合意があり、1年間で20%の円高になりました。こうした背景のなか、前川レポート(1986年)および新前川レポートは内需拡大などの構造改革を目指すための指針として作成されました。

このプラザ合意による円高急進は、日本の輸出産業にとって大きなダメージを与えました。なかでも繊維業界は、戦前戦後を通じて日本経済を牽引してきたにもかかわらず、国家から見捨てられたと思った人も多かったようです。円高に対抗するため海外進出を推し進めることは国内工場を閉鎖することであり、永きにわたって国家へ貢献してきた人たちを断腸の思いで切ることになります。何より繊維業界の存在感を落とすことにもなりかねません。そのなかで、炭素繊維は1つの突破口と目されていました。

炭素繊維は鉄に比べて強度が10倍、重さは4分の1、しかも環境にやさしい素材です。しかし、他の素材との接合が難しく、同時に量産化という難題がありました。これに挑戦した日本のある総合素材メーカーは、経営環境が厳しいなか、多大な投資を要するこの素材の量産化に向け、全社をあげての生産性向上に取り組むことになりました。もちろん、生産性向上はこのためだけではありませんが。

「うちの事業部が稼いだ利益を量産効果のない炭素繊維の開発にこんなに投資するのか」。社内では、こうした声も当然あったはずです。これに対し「炭素繊維は繊維業界を復活させる素材である。世界で初めて量産に成功せるのは当社であり、天下国家のため社運かけて成すべきことである」というスーパートップ(M氏)の思いがあったからこそ、全社一丸となって生産性向上に取り組み、研究開発を支えることができました。そして開発から40年を経て、「黒い飛行機が飛ぶようになった(黒とは炭素繊維のこと)」という記者会見につながります。仕事に対し使命と誇りを持ち、世界と戦い、野武士集団といわれるこの会社にとって、労働時間短縮は容易なことではなかったはずです。制度だけで成しうるものではありません。研究開発と同様に、明確なビジョンと目標、地道で継続した改善とその定着がベースとなりました。

働き方改革は何のために挑戦するのか。その挑戦は容易ではありません。明確なビジョンと信念がなければ形だけの制度導入になり、他の人や他の何かにシワ寄せがいくだけです。競争の時代から共創の時代に進化してくなか、自分たちのためだけではなくサプライチェーンそして社会全体を見据えての取り組みであってほしいものです。

執筆者:宮川 雅明